取り立て先の社長から教わった取り立てのノウハウ
ギャラの取り立てに行った若者(私)に他でもない「取り立て方法」伝授してくれた社長がいる。なかなかの人物で、応接室に大きなクッキーの缶を持って現れ、「今、これが全財産なんだっ」と言いながら缶の中を見せる。小銭や小額紙幣ばっかり。社員数約30名の会社の社長である。そんな訳ないだろ、と思いながらも笑ってしまった。取り立てのかわし方も秀逸な人だったのだが、なぜか私には「取り立て」のノウハウを教えてくれたのだ。
うるさい人順に払います、とのこと
そういう会社は、未払いがたくさんあって、あちこちから催促されていることが多い。こまめに連絡して列の先頭に立たなければいけない。
分割払いに応じる
一括で払えないのなら分割払いを提案しよう。カードのリボ払いのように月1万円とか、少額の方がよいかもしれない。もし20万だったら1年8ヶ月もかかるので、うんざりするが、1円も取れないまま月日が流れるよりもはるかに良い。支払い計画はもちろん書面にして相手のサインももらうようにしよう。
請求書は役に立たない
私の知り合いがある大手流通系の会社を訴えた。店舗のデザイン料を踏み倒されたという。裁判所に内容証明郵便で送った請求書の控えを証拠として提出したのだが、なんの効力も無かったらしい。極端な話、請求書の金額なんていくらでも好きな数字を書けるということだ。額面100万円の請求書を送っても相手が、要求通りのものが納品されなかった、成果物の価値はせいぜい10万円だ、と言い出したら裁判所には、どちらが正しいか判断がつかない。専門家に鑑定させて法廷で証言させよ、ということになる。それでこちら側の鑑定人は期待通り「100万」と言ってくれるだろうが、相手側も鑑定人を連れてきて「10万だ」と証言させる。知り合いが起こした裁判も実際にそうなった。請求書だけで裁判を起こしてしまうと、不毛な泥試合になってしまう。
借用書を書いてもらう
請求書に頼るよりも未払分を、借金という形にするために借用証を書いてもらったほうが良い。正式には金銭消費貸借証書という。それで先方に債務があることはほぼ確定できる。30万円未満の債務不履行であれば、1日だけの裁判で判決を出してくれる。ただし、相手もすんなり借用証を書いてくれるとは限らない。駆け引きが必要になるだろう。
小切手を書いてもらう
最も強力なのは小切手だ。どうせ駆け引きが必要になるのなら、先日付小切手というものを書いてもらった方が良い。先日付小切手とは、未来の日付が記入された小切手だ。取り立ての相手が「すぐには無理だが、3ヶ月後には銀行口座にお金があるから払えるよ」というのなら、それを信じて?3ヶ月後の日付で小切手を書いてもらう。ただし、小切手の日付に法的な効力はない。つまり日付の前でも銀行に持っていけば、現金化されてしまう。非常に強力な手段だ。ただし、その結果、小切手が不渡になって会社が倒産、逆に訴えられてしまったひとがいる。私の場合も3回ほど先日付小切手で回収したことがあるが、記入された日付を過ぎていても、銀行に持ち込む前に相手に事前連絡するようにした。そこでまた、もうちょっと待ってくれ、と言われてしまうこともあったがw。強力な最終兵器なので取り扱いにも慎重さが必要だ。
諦めるというのも立派な選択肢
仮に裁判で勝ったとしても、相手に払えるだけの「お金」と払おうとする「気持ち」が無いとどうにもならない。知らない人が多いが裁判所が出してくれるのは判決であり、あなたにお金を取り立てるための法的根拠を与えてくれるに過ぎない。取り立て(強制執行)の手配は自分でやらなければいけない。
約束された報酬を踏み倒されるというのは非常に腹立たしいが、取り立てに費やすエネルギーや時間のことを考えると、「諦めて他の仕事で取り戻そう!」というのも立派な経営判断だと思う。なにせ自営業である。社長が取り立てに夢中になっていては売上にも悪影響が出て、2次災害になりかねないからだ。